Fujiko Yamamoto

2015年1月15日

かつて日本を代表する美人女優、山本富士子は「憂愁平野」(1963年、東京映画)を最後に映画界をさります。東京映画(東宝系)に出演したことに大映の永田雅一が激怒し、五社協定によって、どの映画会社にも出られなくなったのです。山本富士子32歳の時でした。その後時代が変わっても山本は映画ではなく舞台に活動場所を変えて活躍しました。
その大映の倒産の遠因に人気スター山本を欠いた大映映画の入客不振があるというのですから皮肉です。

「憂愁平野」 1963年 東京映画
井上靖原作の豊田四郎監督得意の文学作品映画です。原作の影響でしょうが暗い映画です。同じ文学映画でも谷崎もの「猫と庄造と二人のをんな」や織田作之助の「夫婦善哉」などは笑える箇所もあるのですが、この映画は重いです。
これはキャスティングによるものが大きいと思います。キャストの詳細は、森繁の妻が山本富士子。森繁に思いをよせる女性が新珠三千代、その新珠のいとこで彼女に惚れているのが仲代達也。仲代の知り合いのカップルが長門裕之と大空真弓。
唯一長門と大空がコミカルな雰囲気を出すのですが、全体の重さにかき消されます。なにしろ森繁がほとんど笑わない役なのでこうなります。

豊田監督はそれまでにも山本富士子を使って映画を撮っています。(『憂愁平野』以前は大映からの貸し出しで、『憂愁平野』の時は山本がフリーランス宣言をして出演したので永田の不興を買いました)
なぜ、この映画に山本かと考えると新珠三千代の役との関係だと思います。ここに森繁の黄金コンビの淡島千景をもってくるとどうしても面白くなります。淡島は話し方の切符の良さや動きがかわいらしくコミカルで、こういう映画には向かないのではと思います。高峰秀子だと「とびぬけて美人」というものがなくなりますがいい感じになると思います。でも彼女は「成瀬組」なのです。

それにしても、山本富士子を逃した映画界は損をしたと思います。寅さんマドンナで出てたら良かったのになと思います。

(Hatena::Diaryより転載)